ひと夏すぎて


 あーもうヤベェよマジやべぇよどうしよう。
 夏休みもとっくに終わったある日の夜。ひとんちのベッドに勝手に転がって、バカ友がわめく。
 知らねえよと俺は返す。合コンで喰った子が今カノのバイト先の後輩で泥沼なんて自業自得じゃねえか。そう言ってやったら、今まで二ヶ月以上続いたことない、そのくせ女の絶えない恋愛短距離王は口をとがらせる。
 だってだって夏はやっぱりアバンチュールの季節でしょ、だって。秋になったら人恋しくて冬になったら温め合いたくて、そんで春がきたら新しい恋の予感を感じるんだろ万年発情期。反論にもならない反論してくるんじゃねえ。
 あメール来た、さおりんだ。
 喰った女か。
 それはかなちゃん。
 誰だそれ。今カノはたしか、まさみちゃんだろ。
 それは前カノ、今はあさこちゃん。
 じゃ結局さおりんは何カノだ。
 さおりんとはヤッてねーよ。さおりんレズの人だから俺じゃイケねーの。
 めっちゃ笑顔で言うな。レズじゃねぇ女とならヤんのかよこのパッパラパー。
 俺んこと好き子なら。
 好みってねぇの。
 俺んこと好きになってくれるコが好き。
 会話がバカすぎて頭が痛くなってきた。ビールでも飲もうと冷蔵庫を開けたら、後ろから俺にもなんて図々しい声が飛んでくる。
 これが最後の一本。
 ひとくちでいいから、ちょーだい。
 寝転がったままで口を開けるから、押し付けてやったらむせやがった。ひでぇ今日マジ冷てぇなんて、上目遣い。ウルウルのでっかい目。上下の睫毛に涙浮いてる。
 相手してよ。おまえしか話聞いてくれるヤツいねーんだから。なんて。うそつけ。男の敵のくせになんでかダチ多いだろオマエ。いくらだっているだろ転がりこんで愚痴言える相手。って、それこそ冷たくあしらってやったつもりだったのに。
「でもこういう話はしないよ。俺マジで頼れるダチってきっとおまえだけ」
 って真面目な顔で言われて絶句した。
 言うなよ。そういうこと。嬉しくなるからマジ泣きそうになるから。
 そういうこと言われると、課題ほったらかして眠いのに疲れてんのに痴情のもつれぐだぐだ聞かされたくなんかねぇのに、それでもオマエのことほっとけないってどういうことなのか、見つけたくもねぇ答え見つけちまうだろうが。オマエなんてパーのくせにヤリチンのくせに短距離王のくせに。
 なあ。
 この間。夏休みの最後の日。オマエ酔いつぶれて転がり込んできて、ふざけて俺にキスしただろ。なあ覚えてるか覚えてないだろ覚えてないよなきっと。
 俺はさ、忘れらんないんだよ。
 夏なんかとっくに終わったのに。オマエの感触が今もずっと残ってて。
 忘れらんないんだよ。オマエにはこんな気持ち、絶対わかんないんだろうけどさ。
「つーか俺だってわかりたくなんかねえんだからさ」
 だから嬉しくなること言うな。なんて言っても。
 寝ちまったコイツには聞えなかった。
 
 
 <了>

 
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